電安法

いま、仕事場での話題は何につけ電気用品安全法である。これ、ごく普通の生活してたらたぶんあまり気に留めないものだと思うのだけど、ものすごく単純に言ってしまうと、この4月から、適合品認定を表すPSEマークが貼られていない電気製品は販売できないことになったのだ。これは、新品・中古を問わない。

今後発売される新品は、もちろん製造者認定でPSEが貼られることになるだろう。既に貼られている製品もある。PSEの認定制度は2001年に決まったらしいので、それ以降に良識あるメーカによって製造されたものは、恐らくPSE適合品のはずだ。5年間の猶予が与えられて、ついにこの4月から完全施行されるわけだ。

でも、結局、メーカも販売サイドも、5年間ろくな手を打たず、施行までもうあとふた月という今ごろになって慌てている。実際、海外製品の輸入代理店(しかもわりに大手の)なんかもかなり慌てて輸入事業者として認定作業に追われているみたい。

メーカや代理店でさえそんな状態なのだから、販売店がその準備をしてきているわけがない。僕は(いやうちの職場の誰もが)その法令さえ知らなかった。

「準備」といっても、実は販売店は為す術がないのだ。経済産業省電気用品安全法手続案内にあるように、販売店はメーカや代理店が認定したものを売るだけ。認定されていないものは売ってはいけない。ただそれだけなのである。

うーん、まあ、この法令の意味するところはわかる。実際、経産省のWebでもこの電安法のページは「消費者政策」の中にあって、消費者が安全に使用するため、という建前は理解できる。

ただね、十把一絡げに電気製品を括ってしまったのが間違いだ。例えば、いわゆる家電製品は、恐らくその殆どは新しいモデルの方が従来のモデルよりすべてに於いて優れているだろう。稀に改悪されてしまっているものもあるが、それでもその次のモデルでたいていは改善されているはずだ。たいていは上位互換が保たれていて、従来の機能(の優れた部分)はすべて踏襲した上で後発の新製品が開発・発売される。去年のモデルでパンが焼けたオーブントースタは今年のモデルでもたぶんパンは焼けるはずだ。しかも、恐らく去年のモデルよりふっくら美味しく焼けるだろう(これも稀に例外はあるだろうが)。去年買ったオーブントースタを売ってまで20年前のトースタを探して買い求める人はごくごく僅かだろう(デザインを機能に優先させる場合はその限りではないが、その場合、認められる価値は家電製品としてのトースタの本分ではない)。

だが、電子楽器も含め音響機器の価値は、家電製品とはまったく異なるのだ。唯一無二で、上位互換の効かない製品、後発の製品が従来品を超えられないモデル、というかもう単純に替えの効かない「それでしか出ない音」という機材が数多く存在するということだ。つまり、去年買った最新モデルを半年も使わずに売ってまで、20年前のアナログの機材を買い求めてしまう世界なのだ。そんなこと、他の電気製品であり得る?アマチュアのオーディオマニア、シンセマニアはもとより、例えば最先端のレコーディング・スタジオにだって実はいまだに真空管を使った機材がごろごろしている(そしてもちろん多用されている)。僕らの業務は、その連鎖の一端として、潤滑剤として、少なからず意味を持ったものだったはずだ。それが、「販売不可」だなんて…(そのような機材を「使用する」ことは認められている)。

実は、この電安法は、パソコンとその周辺機器が除外されていて(管轄云々という政治的な話も聞く)、パソコンおよび周辺機器はPSE適合外でも販売は許される。でもさ、それが通ったのであれば、この音響機器も除外すべきであったのだよ。いまさらぶつぶつ吠えても仕方がないのかも知れないけれど。

長くなりそうなんで明日に続く。