野川、下る

秋らしい好天のもと、相方と自転車で出掛けた。調布の香港屋台市場の前を通り野川沿いに出て、左岸を下る。野川沿いは、もっと上流の野川公園の方しか走ったことがなかったのだが、下流に向かう道もきちんと整備されていてとても走りやすい。気持ちがいい。

この野川や、神田川とか善福寺川なんかもそうだけど、小さな川沿いの道はどこも民家の間を縫っていて、いつも、裏庭をこそっと走らせてもらっているような感覚になる。食事の用意をする音(器がぶつかる音、包丁がまな板を叩く音)や匂い(カレーだったりニンニクとオリーブオイルだったり)、洗濯機や掃除機の回る音…。バラエティ番組のお仕着せの笑い声。子供を叱る母親の声、泣きわめく赤ん坊。もっと時間が深くなると、シャワーの音、カルキと石鹸・シャンプーの香り。ひと月くらい前までは、どこからともなく蚊取り線香の匂い。たいてい裏口というか勝手口に面しているから、そんな、漠然渾然一体とした生活感というアンビエンスの中を泳いでいる感覚。とても面白い。

のんびり川を下って二子玉川多摩川に合流。野川では、以前野川公園のあたりでカワセミを何度か見かけているが、今回は見つけられず。川面に見る鳥は、いつものようにカルガモが一番多いかな。留鳥だから我がもの顔だね。案外白鷺が多いので驚いた。おそらくそのほとんどがコサギだろうけど、一羽だけ嘴が黄色だった。チュウサギか?野川のサイズだったらコサギがちょうどいいね。あんなところにダイサギアオサギがいたら、すわ「鶴か!」なんてことになりかねない(笑)。余談だが、サギの仲間ではアマサギが一番好き。あの橙のボサボサ頭を見ると夏だなぁと思う。最近はちっとも見ていないけれども。

二子橋を渡って、今度は多摩川右岸を遡る。風もそれほど強くなく、漕いでいるとちょっと汗ばむくらいの気温でちょうどいい。多摩川水道橋で左岸に移動、そのまま是政橋まで。そこで一般道に下りて、府中街道北上、東八道路新小金井街道玉川上水沿い、井の頭通りと走って、吉祥寺に。既に日も沈み、あたりは暗く。

紀ノ国屋を過ぎたあたりで、進行車線にトラックが停車していてそれをかわして走るために、僕は車道後方を目視し、右手を挙げて後方の車にサインを出し、しかも僕の後続の相方をなるべく安全に通すべく、ソロで走っているときよりもセンタライン側に膨らんで後方の車に大きくアピールをした。もちろん、僕も相方もヘルメット着用、LEDテールライトを点滅させている(前照灯は当然)。

…ら、どうやら後方の車は僕のそのアピールに腹を立てたようで…僕が停車中のトラックを越して車道左端に戻った頃、大きな音を立てて必要以上にエンジンを吹かし僕を抜いていった。感じ悪いなぁと車を見たら、側面に某医院の名前の入った軽のワンボックスの営業車だった。運転席を睨んでやろうかと思ったが(笑)、僕自身はそれほど危険な思いをしていないし、普段、追い抜いていく自動車が感情に任せて不必要にエンジンをふかすくらい無視していないと、とてもじゃないけど車道を併走できないので、敢えて意識しないことにして、吉祥寺通りの交差点を越えて止まり、後続の相方を待つことにした。

が、今度は、相方がなかなかやってこない。しびれを切らして様子を見に行こうと交差点を渡り専門学校のあたりまで戻ると、自転車押しながら膝から血を流し、半べその相方を発見…。

話を聞くと、相方がちょうど停車トラックを越しているときに先のその某医院の営業車が幅寄せしてきて、自転車のハンドルが車と接触するかしないかで、転倒したらしい…。もちろん車は走り去り(つまり僕が運転席を睨もうかと思っていた頃だ)、停車中のトラックのドライバが道路の反対側のコンビニから駆け寄ってくれて自転車と相方を起こし、「いまのはあの車が悪い。何かあったら証言してあげます」と言ってくれたらしい(あなたがこんなところに駐車していなければ…とは、まあ既に状況的には言えない)。

うーん、相方が怪我をしたのももちろん酷くショックだが、僕がそれに気づかずに次の交差点まで走ってきてしまったこともとてもショックだ。転倒したことにその場で気づいていれば、介抱した上で該当の車を追いかけることも出来たし、すぐその場で警察を呼ぶことも出来た。何よりそれが悔しいし、また今後一緒に車道を走るときに、どうすれば一番安全か、もう一度考え直さないといけない(明るいうちは、振り返りながら、またバックミラーを見ながら、相方がついてきているか、すぐ後ろで車道を走っているのか歩道に逃げたのか、それらを頻繁に確認しつつ走っているのだが、夜はミラーを見たり振り返ったりしても、どれが相方の自転車のライトかもわかりづらく、なかなか難しい。もちろん言い訳でしかないのだが…。声が届くくらいの間隔で走るしかないか…)。

もちろん、自動車が実際に幅寄せしてきたのかどうか、僕は目撃していないのでわからないが、とにかく相方が転倒したことと、直前に僕が停車中のトラックをかわしたときにその某医院の当該車が、僕にプレッシャをかけるべく不必要にエンジンを吹かし抗議しながら抜き去ったのは事実だ。エンジン音は偶然かも知れない、けれども、自動車を運転される方なら、周囲のエンジン音やクラクションの音が、故意に鳴らされたものかそうでないのか、不思議と判断(コミュニケート)できますよね?

翌日、どうにもこうにも納得が出来ないので、当該車の脇に書かれていた医院名から電話番号を調べて、電話をした。電話に出た方は、突然の不審な電話にも関わらず(いや、ちゃんと住まいと名字は名乗ったよ。笑。番号も非通知でなく)丁寧に対応してくれた(それ以上に僕も気を遣って非常に丁寧に電話をしたのだけれども・笑)。個人が自分の車でドライブしているのならともかく、営業車って会社の名前背負って走っているわけで、まして御社は医療関係であるのだし、慎重に慎重を重ねて走ってもなんの損はないでしょう?と、話しをした。連絡ありがとう、その件は更に徹底して指導します、と返事をもらった。

実は以前、僕は某ガス会社の営業車がウインカを点けずに繰り返し車線変更しているのに遭遇し、ホームページから苦情を投げかけたことがある。そのときも、同じことを書いた。今回同様、公共性の高い企業だし、営業車の運転に慎重になってなんのマイナスもないはずだ、と。そのときもすぐに返事が来て、従来以上に交通の安全は徹底します、と書かれていた。

確かに、企業に対するこんな苦情は、言う側の自己満足でしかないだろうが、先方に「あなたたちの運転は見られてるんだよ!」とメッセージを送ることは少なくとも何らかの緊張を与えられるのではないだろうか、そんな気がしている。決して、自転車乗りが自転車側から見た一方的な意見、というだけではないはずだ。